山﨑新会長と藤岡事務局長に聞くJCCのこれから
ジャパン・コスメティックセンター(以下JCC)は、6月に開催された総会でアルバン・ミュラー氏が顧問へ就任、山﨑信二氏が会長に選出されました。新体制となったJCC。これからの取り組みと、その根底にある想い、思い描く未来を、山﨑新会長と藤岡事務局長にうかがいました。
■山﨑信二氏
化粧品等の輸出入代行及び、品質管理業務と理化学試験の分析受託を行う㈱ブルーム代表取締役。JCCには設立当初から8年にわたり、副会長として尽力されてきました。
「自然に恵まれた唐津の地に新たな産業を生み出したい」山﨑会長(左) 「まずは佐賀県、唐津市・玄海町が元気になること。それが重要ですね」藤岡事務局長(右)
■世界に見出された唐津、それがJCCのはじまり。
化粧品産業の集積地を目指す"唐津コスメティック構想"。その中心的な組織JCCは、"国際的コスメティッククラスター"※1を実現するビジョンのもと、美容分野・健康分野・素材分野・交流分野の4つの柱としたさまざまな事業を展開しています。
設立から9年目を迎えますが、正直なところ私を含めてまだまだ「JCCって何?どんなことをする所?」と思っている方も多いようです。
――改めて、JCCについておさらいをさせていただければと思います。
山﨑会長:では、JCCの設立からお話しましょうか。そのきっかけは弊社ブルームも関係しています。弊社は、海外ブランドの化粧品が日本に進出する際の、薬機法等に関わる検査業務等を一手に引き受けています。このビジネスモデルを評価して、フランスの"コスメティックバレー"※2が「ブルームと取引をしたい」と声をかけてくださった。
また、化粧品原料調達やアジアの拠点としても唐津を検討していた。コスメティックバレーは、世界最大規模の化粧品産業集積地で、いわばフランスの国家プロジェクト的な存在です。民間の一企業ではとても対応しきれないと、当時の佐賀県知事、唐津市長、玄海町長に「こういう話がうちに来ている」とお話をして、JCCが生まれたわけです。
――今回、JCCの会長がアルバン・ミュラーさんから山﨑さんに代わったいきさつをお聞かせください。
山﨑会長:アルバンさんはコスメティックバレーの二代目会長で、この組織を大きくした功労者です。国際的な信頼度も高い方で、日本とフランスをつなぐJCCの顔として、初代会長を務めてくださいました。もともとは原料メーカーの社長さんです。唐津と似たような第一次産業のあるところで、農家の方に作物を育てていただいて、それを自分の会社で乾燥・粉末・抽出して化粧品の原料を作る。それがどこに行っているかというと、誰もが知る高級ブランドです。
ただ、2年前にご自分の会社を譲られたことと、唐津・日本の方へもなかなか来づらいという状況になりまして。またJCCの基盤ができてきたこともあり、今のJCCの取り組みや課題、大きく言えば日本の産業界の問題、そこら辺も全部やっていこうじゃないかということで、私が会長をお受けしました。
■日本の化粧品を取り巻く危機感を、世界に打って出る動機に変える。
――JCCの活動についてですが、ウェブサイトやメールマガジンなどを見ていて、昨年から海外進出支援に力を入れていると感じています。その理由をお聞かせください。
山﨑会長:私がJCCを作るときに、「このままでは、日本の化粧品は第二の家電になりますよ」と言いました。家電は全て日本が席巻していたのですね。それから20年くらい経って、世界市場のシェアが激減してしまった。
要因の一つは、日本のマーケットだけで考えていたから。これから先、日本の人口が減少して、マーケットも縮小するとなると、どの会社も輸出を検討する。それにも規格検査などがあり、容易なことではない。そこをお手伝いさせていただこうと考えているからなのです。
藤岡事務局長:JCCは海外のコネクションを活かせるのが強みです。フランス、スペイン、イタリア、タイ、台湾、中国の投資会社との提携もございます。あと一方は地域の原料、この二つを大きな柱として設立当時から8年、進めてきました。
私たちは直接製造や販売をするわけではありませんが、会員の方々にビジネスの場をご提供し、企業間のマッチングや情報提供など、プラットフォームとしての仕組みを構築していくのが重要な仕事であると考えています。
――日本の状況を見据えてのことだったのですね。具体的には、どのような取り組みをされていますか。
藤岡事務局長:特に今年度は、"ハンズオン支援"※3をメインにテストマーケティングの場等を設け、韓国・マレーシアを主に、海外進出に必要な勉強会や情報提供を行っています。
また、ヨーロッパに"グローバルコスメティッククラスター"※4があるのですが、日本で唯一加入しているのがJCCです。海外進出には様々な制度、世界市場向けの商品作りなど、多くの課題がありますが、JCCはグローバルコスメティッククラスターで得た、最新の情報を日本の企業様にお伝えすることができます。
そして、個々のJCCの会員のネットワークを活用し、輸出サポートの企業様をご紹介しながら、ネットワーク全体で会員企業様がうまくいくような支援を行っています。
山﨑会長:もっとかみ砕いて言えば、日本にはとてもいいものがある。でも輸出するとなるとハードルが高すぎる。大手企業はノウハウ・お金・人材を持っているけれど、中小企業はなかなか…ですよね。だから輸出のハードルを越えるために必要な事柄を、私たちJCCがサポートしたいのです。
また、ブルームとしても化粧品がメインではありますが、食品や、その他の特産品も輸出できるルートを作っていきましょう、と尽力しているところです。分かりにくいかもしれませんが、この想いをぜひ多くの方に知っていただきたいですね。
■コスメ産業でふるさとの価値を再認識し、暮らす人々の豊かな未来を拓く。
――私も、日本の化粧品が大好きですし、世界中で日本の化粧品が使われるようになればうれしいです。このようなグローバルな取り組みの根底には、どのような考えや想いがあるのでしょうか。
山﨑会長: 唐津は、海外から視察でいらっしゃる方々から、よく「自然が豊かで美しい」と褒め言葉をいただきます。海があって山があって、水質も良く潤沢で、自然が豊か。海外にこういったところは意外とないのです。こんないい環境で育つ原料は当然いいものであろうと、欧米の方は考えるのですね。
コスメティックバレーも、いい原料を供給してくれるのは日本だと期待している。だから唐津で原料を育てて作った商品を海外に出して、外貨を得る。今私たちが取り組んでいるのは、その基盤づくりなのです。唐津はアジアに近く、地理的にも恵まれている。
その利点を活かし、企業誘致や新しい産業を起こしたいのですね。雇用が生まれれば市民税や県民税、法人税などの地方自治体の税収が上がり、地方での暮らしが豊かになります。JCCができてから、パートさんを含めざっと計算しただけでも、600人ほどの雇用が生まれています。それに、物流など関連企業の雇用もありますし。
藤岡事務局長:そうですね、一番に考えているのが雇用創出です。特に一次産業が盛り上がれば、耕作放棄地や高齢者の問題など、いろいろな問題も、おのずと解決していくのではないかと思います。
薬用植物栽培研究所(玄海町)
――JCCは海外に注力していると思っていましたが、その根っこは「地元佐賀・唐津を盛り上げたい」という想いがあるのですね。最後に、JCCが描く未来として、読者の皆さんに伝えたいことをお聞かせください。
山﨑会長:私が個人的に思っているのは、新しい産業を産んで、雇用も税収もどんどん増えて、この地域が豊かになっていけるようなことができれば…ということです。例えば、以前フランスへ視察に行ったとき、グラース※5で農家さんに話を聞きました。化粧品原料の花を4毛作で育てて、収入も倍増したそうです。原料にするから見た目も関係ないので、農薬不使用にできる。農薬散布の経費もかからないそうです。
日本でも土壌や気候を調べたら、挑戦できるのではないかと。佐賀は第一次産業がメインですから、転作として化粧品原料の農業も取り入れられたらと思っています。
藤岡事務局長:化粧品産業は、原料になる植物を育てる農家さん、化粧品の容器メーカーさん、ラベルの印刷会社さんなど、周辺産業が多く裾野が広いです。この浜崎のエリアも最初はブルームさんと松浦運送さん、OEM会社のトレミーさん3社でしたが、進出される企業さんがどんどん増えてきています。
また、地方には就職先が少ないため、若い人が流出する問題もあります。JCCを通して、地元の学生さんが就職できる会社が増えると本当にいいなと思います。「唐津に居ながら、海外とつながる仕事ができるよ」と。
フランス(グラース)視察時の写真
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「自然に囲まれて、物価も安いし、食べ物も旨い。唐津に住んでいること自体が大資産ですよ」。長年海外を飛び回り、ビジネスをされてきたJCC山﨑会長。その言葉には故郷・唐津への深い愛情がありました。
唐津の地で育まれる作物が、化粧品原料となり、高品質な化粧品として海外へ渡る未来。それはこの地で暮らす人々を幸せにする未来でもあります。
化粧品産業を軸に、地域の素晴らしさを再確認して世界を目指す。唐津コスメティック構想の新たなページが開きます。
唐津市の風景
「新たにコスメ事業を始めたい企業や個人の方」はもちろん、「訴求力ある自然素材を探している」「事業の足りないピースを埋めたい」「自社商品を輸出したい、販売先を増やしたい」「事業の中で地域と繋がりたい」「コスメ関連産業で自分のスキルを活かしたい」「新しい何かを探している」などのニーズ・お悩みがあれば、ぜひJCCに相談してみてはいかがでしょうか。
※1 国際的な化粧品産業の集積地のこと。ここでのクラスターとは「企業、大学、研究機関、自治体などが、相互の連携を通じて美容・健康関連事業に関する新たな付加価値の創造を目指す集団」を意味します。
※2 フランス中部・シャルトル市を中心に、メーカー・工場・大学・研究機関が集まる化粧品産業クラスター。
※3 指示だけでなく、実際に実務に携わりながら行う支援。
※4 世界中のコスメクラスター同士が結び合うクラスター連携。
※5 フランスの南東部に位置する、世界的な香水産業の街。香水の原料となる植物の栽培も盛ん。
Text:山内 有紀
ライター、コスメコンシェルジュ。広告制作会社を経て、2016年よりフリーランスに。化粧品や健康食品のコピーライターとして活動。2017年よりJCC会員。地域素材がコスメの原料になることを知り、ブログで日本各地のご当地コスメを紹介している。
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